特定非営利活動法人日本ウミガメ協議会付属

ウミガメの研究

私たちの研究は主に2つに分かれます。一つ目は、ウミガメの産卵回数と標識放流です。これは数十年という長期的な視点で実施されています。もう一つは、ウミガメの一日の行動を明らかにするための調査です。大学などの研究機関と共同で実施しています。

ウミガメ産卵調査

黒島 西の浜

産卵調査はウミガメもしくはウミガメが上陸した痕跡を探して砂浜を歩きます。私たちは、西の浜を1978年より調査しています。これは日本で3番目に長く、沖縄県では1番長い歴史となります。産卵調査は砂浜を歩くだけの地味ものです。簡単であるがゆえに広範囲に、そして長期的に実施できます。この調査は、特別なものではなく、全国規模で一般の人たちによっても行われています。


このグラフは西の浜におけるウミガメ類の産卵回数を示しています。1980年代までは、アカウミガメの産卵が多かったのですが、近年ではほとんど見られなくなりました。90年代からは、アオウミガメの産卵が確認されるようになりました。タイマイは同じぐらいの数が継続的に確認されています。このような種ごとの変化は、温暖化によって産卵地が変わった、個体数の増減とも考えられますが、はっきりとはわかりません。しかし、八重山諸島においてアカウミガメが減り、アオウミガメが増えた、という事実を明らかにしています。

西表島南岸

黒島研究所は、西の浜の他に西表島南岸にあるウブ浜とサザレ浜のモニタリングも実施しています。これらの浜は、八重山諸島でも屈指のアオウミガメの産卵地として知られています。産卵シーズンには、数メートルおきにウミガメの上陸痕跡がみられます。

琉球大学伊澤研究室との共同研究により撮影。転載禁止

2008年に突如としてリュウキュウイノシシがウミガメ卵を食べ始めました。在来のイノシシがウミガメ卵を食べるのは、とても珍しい行動です。2010年に新聞に載せたところ大きな反響がありました。そして、イノシシを駆除するべきという話もありました。しかし、リュウキュウイノシシは琉球列島の固有種です。しかも、他島では豚との混血が進む中で、西表島のイノシシは純血を保っている貴重な個体群です。我々としては、イノシシを悪者にせず、自然のままに任せることにしています。

ウミガメ標識放流調査

ウミガメに個体識別用の標識をつけて海へ放流します。次に見つかれば、ウミガメの成長や移動ルートが明らかになります。この調査によって、八重山諸島は未成熟のアオウミガメの餌場になっていること、アオウミガメは一年間およそ2㎝大きくなることがわかりました。また、八重山だけでなく、本州や海外でも再発見されました。

標識放流調査は、動物の移動や成長だけでなく、解析によっては個体数や死亡率もわかる万能な手法です。私たちは、2009年より黒島周辺に住むアオウミガメの個体数を調査しています。そして、アオウミガメの生息数は、この10年ほどで徐々に増加していることがわかってきました。

温暖化の影響を調べる(ウミガメのオスとメスの割合)

ウミガメは卵が経験する温度で性別が決まります。およそ29度よりも高ければメス、低ければオスになります。この特性のため、温暖化によってメスが増え、オス不足によって未受精卵が増える危険性があります。
私たちは90年代と2010年代に八重山海域で約300匹のアオウミガメを捕獲し、性別を調べました。その結果、この20年間においてウミガメの性別はオス:メスが1:2で変化していないことがわかりました。少なくとも、この20年において温暖化の影響は進行していませんでした。ウミガメはもともとメスの方が多いことが知られています。これは1匹のオスが多数のメスと交尾できるので、メスの割合が多いほうが生存に有利なためです。

未成熟のウミガメは外見から性別がわからない。このため内視鏡によって直接 精巣か卵巣かを確認しオス・メスを判別する。画像は卵巣。


現在は砂浜に温度ロガーを設置して、砂中温度から性比の変化を調べています。そして、気温との相関を調べ、過去の性比を推定しています。図はメスの割合を%で示したものです。まだ十分な解析はできていませんが、この120年間に1割ほどメスの割合が増えたようです。