特定非営利活動法人日本ウミガメ協議会付属

増えるアオウミガメ

一般、マスコミからのお問い合わせの多いアオウミガメの増加とその原因について説明します

アオウミガメとは

 世界中の温帯から熱帯にかけて生息しています。沿岸性のウミガメでダイビングやシュノーケリングで観察できるウミガメは、ほとんどがアオウミガメです。沖縄県では、岸から観察できるところもたくさんあります。主食は海草や海藻です。また、地域によってはクラゲ等も食べています。日本では小笠原諸島と南西諸島で産卵します。海域では東北から八重山諸島まで見ることができます。


泳ぐアオウミガメ。日本の沿岸に最も多い種類

アオウミガメは増えている?

 アオウミガメは世界的に増加傾向にあります。日本でも様々な産卵地で母ガメもしくは産卵回数の増加が報告がされています。研究所では2009年から黒島海域にいるウミガメの数を調べていますが、この10年で200頭から400頭に増えています。


黒島周辺における海域のアオウミガメ個体数

なぜ。アオウミガメは増えた?

 いくつか要因はありますが、第一の理由は人がウミガメを食べなくなったからです。一昔前には、日本各地でウミガメを積極的に捕獲し、食べたり、剥製にしていました。その後、時代とともに食文化は薄れて、剥製を飾る習慣もなくなりました。沖縄県では、2000年頃までウミガメ漁が積極的に行われていましたが、現在はほとんど捕獲されていません。
 ウミガメ漁以外の理由としては沿岸漁業の衰退とサメ駆除が考えられます。以前は、アオウミガメの住む浅い海域で、刺し網や小型定置網漁などが盛んに行われていました。しかし、近代漁業は沖合でマグロ・アカマチなど値段の高い魚を捕ることが主流になっており、アオウミガメの混獲は少なくなりました。そして、漁業対象の高級魚がサメに食べられることを防止するために、ウミガメの天敵であるサメも駆除されるようなりました。アオウミガメにとっては混獲の脅威も減り、天敵であるサメもいなくなっているわけです。


ウミガメ漁で漁獲されるアオウミガメ


魚を取る目的で設置された網に絡み、死亡するアオウミガメ。このような小規模な沿岸漁業は衰退しつつある


駆除されたイタチザメ。ウミガメ類の天敵である

そもそもウミガメは捕獲して良いの?

 日本ではアオウミガメは各都道府県レベルで規制がかかっています。海域において、ウミガメは積極的に食用とされた歴史があるため、現在も法的には魚と同じ漁獲物として扱われています。今でも、沖縄県や東京都では捕獲枠が設定され、許可を得れば食用として捕獲できます。例えば、沖縄県ではアオウミガメは約200頭の捕獲枠があります。しかし、八重山最後のウミガメ漁師が引退してからは上限に達していません。なお、砂浜に産卵に来る母ガメとその卵については、原則捕獲が禁止されています。

沖縄県におけるアオウミガメの漁獲統計(沖縄県水産課WebSiteより)。2004年に最後のウミガメ漁師が引退して以降、ほとんど漁獲されていない

アオウミガメは何処から来るの?

 日本はアオウミガメにとって餌を食べる場所です。このため、日本の沿岸で見られるアオウミガメは、未成熟のサイズが大半を占めています。この未成熟のアオウミガメは、日本生まれだけでなく、世界中からやってきます。特に沖縄県八重山諸島では、日本産と海外産の割合が同じぐらいです。この割合は北に行くほど日本産、特に小笠原生まれが多くなることが知られています。

黒島におけるアオウミガメの大きさ(甲らの長さ)。最小成熟サイズは80㎝。ほとんどが未成熟サイズである

左:移動のイメージ図。
右:八重山諸島で捕獲されたアオウミガメの出生地を調べたグラフ。小笠原諸島と琉球列島(屋久島から八重山諸島)で生まれた個体が約半数。もう半数はミクロネシアなど西部太平洋域とフィリピンなどの東南アジアが多い。

アオウミガメは絶滅に瀕していますか?

 アオウミガメは国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されています。この評価は2004年の報告書に基づきますが、元データは90年代がほとんどです。つまり、現状が正確に反映されているとは言えません。このため、IUCNは「アオウミガメの評価は更新する必要がある」としています。なお、沖縄県の最新のレッドデータブック(2017年)ではアオウミガメは準絶滅危惧種、つまり絶滅危惧種とは評価されていません。


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IUCNのWebサイトより抜粋。絶滅危惧種(Endangered)に指定されているが、左下を見ると、再評価が必要(Needs updating)と記載されている

アオウミガメが増えると問題があるのですか?

 アオウミガメは草食性の動物です。そのため、個体数が増加すると海草が減少することが知られています。海草は海洋生態系にとって重要な場所で、特に魚類やイカの中には海草場がないと生きていけない種もいます。日本でも西表島をはじめ各地で、アオウミガメの食害によって海草場が減少しています。また、漁業への被害も多く、漁網が破られたり、売り上げにつながる魚がつぶされてしまったりします。


海草をたべるアオウミガメと海草場。右側のような海草場は減少し続けている

アオウミガメはこれからも増え続けますか?

 アオウミガメの産卵回数は世界的に増加しています。子ガメの生産が増えれば、それだけ海域にいるアオウミガメは増加すると考えられます。一方で、アオウミガメは個体数が増える(生息密度が高くなる)と、成長が遅くなることが知られています。つまり、ウミガメは小型化し、成熟までの年齢は遅くなります。長期的に見れば、生産力が弱まり、個体数は頭打ちになる可能性があります。

八重山諸島の主要な産卵地である西表島南岸のウミガメ上陸状況。調査出来ていない年もあるが、徐々に増加している

八重山諸島におけるアオウミガメの成長速度(甲長40㎝~80㎝の場合)。2003年以前は40㎝から80cmになるのに14.8年、2004年以降は18.1年である。将来的に個体数が増えた場合、成熟はより高齢になる

以下、よくある質問について回答します。

アオウミガメが増えているのは日本だけですか?

 いいえ。世界的に増加しており、珍しいことではありません。最先端の研究をしているカリブ海では、2007年にはウミガメの増加と深刻な海草場の被害が報告されています。その後、国際誌に多数の論文が出版されています。今必要なのは、新しい研究ではなく、知見をとりまとめることでしょう。

アオウミガメは一日にどのぐらい餌を食べますか?

 日本に多い未成熟個体のサイズなら、一個体が海草の乾燥重量にして一日90gほどを食べます。ウミガメの大きさや海草の生息密度によって変わりますが、イメージとしては1日に約1メートル四方の海草を食べます。

アオウミガメの捕獲規制を緩和する効果はありますか?

 ありません。上記の「そもそもウミガメは捕獲して良いの?」をご確認ください。ウミガメが増えたのは、動物保護・愛護の精神が広がりウミガメの需要が減ったためです。法的な規制が厳しいからではありません。

アオウミガメの駆除・間引きは効果がありますか?

 地域レベルでは効果があります。熱帯・亜熱帯域のアオウミガメは個体ごとで特定の餌場(数キロ以内)に数年間ほど固執する性質があります。そのため、毎年同じ地域で、数十から数百個体を間引けば、その地域の個体数を抑える効果は期待できます。しかし、国・県レベルとなると難しいです。なお、アオウミガメは摂餌場所にこだわるため、少なくとも十数キロの範囲では、別の場所に移動しても元の場所に戻る性質があります。そのため、島の反対側へ移動する程度では、効果は見込めません。

ウミガメの駆除には反対です。なんとか共生の道はありませんか?

 食料が安定的に供給されるようになった現代において、海を代表する大型海洋動物は殺すべきではない、という意見もあります。特にウミガメは日本各地で信仰の対象にもなっています。絶滅危惧種で有る・無いとか、個体数の増減に関わらず、守りたい気持ちが起こるのは必然です。アオウミガメは上記のとおり特定の場所にこだわる性質があります。したがって、地域レベルの問題として扱ってはどうでしょうか。例えば、座間味島ではウミガメは観光資源として利用されています。小笠原諸島では食用としてだけでなく、命の大切さを伝える教材としても利用されています。